前回歪みの話しの時、周波数について少し触れたけど、この周波数が何にどう関わるのか? 音作りする上でどの程度重要になってくるのか? 今回はそんな話しをしようと思います。
毎度ブログ書きながら思うんですが、僕みたいな解説ブログではイメージしてもらう事が大事だと。文章なんてそのまま理解する訳じゃなし、へぇ~ってなるのは頭に図が浮かんだ時なので、だからいつも話が長いです。ホント暇な時におススメします。逆に斜め読みする方が時間がもったいないので。
さあ早速始めましょう。まずは音そのものから。
人間は鼓膜の振動を音として認識しますね。鼓膜を振動させるのは空気です。もっと言うと空気の揺れです。何かが振動しても空気がないと鼓膜には届かないので、音は聴こえません。
振動は空気を押したり引いたりして波を起こします。その波に合わせて鼓膜が動き、人間はそれがどんな振動かを感じ取ります。
その"どんな振動"かを表すものの一つが周波数で、音の高い低いを数字で表す事が出来るんです。周波数が小さいと低い音。大きいと高い音を表します。
前回お話ししたサイクルという言葉。波が押して引いて元に戻る一連の動きを指し(図1の左)、1秒間に1サイクルで1Hzという所まで話しましたが、このHz(ヘルツ)が周波数の単位になります。チューニングしたり音を作ったりイメージを伝えたり、覚えておいて損は無い数字なのでメンドクサイけど覚えてみてね。
人間の耳は聴こえる範囲がだいたい決まってます。可聴範囲と言いますが、概ね20Hzから20kHz。これより下も上も耳では聴こえません。下は体感で認識出来るみたいだけど、上は加齢と共に聴こえ難くなるようで、モスキート効果なんてのが話題になった事もあります。(若い人の方が超高音まで聴こえるのを利用したもの)
ではギターの音域はその中のどの辺りにいるかと言うと、大雑把に80Hzくらいから1.5kHzくらいかな? これはあくまで音程(音の名前)での話しなので、耳に聴こえる音の周波数とは異なります。実際の音には倍音という音の質感に関わるもっと上の周波数が加わってるので、歪んだエレキギターの音なんかでは聴感上1.5kHzはミドル~ハイミッドの帯域。ディストーションの効いた高音域は10KHz以上にもなる。音の名前はその音の一番低い周波数を基音として音名で表してるんです。
なんか楽典ぽくなってきたな。ついでに今時のチューニング事情はどうでしょう? みんなほぼほぼチューナーだろうから、A=440Hzという言葉に馴染みがあるかどうか?
昔は音叉が当たり前だったので、音叉の音と5弦5フレットのハーモニクスを合わせるやり方が主流でした。その440HzのAの音がギターでは1弦5フレットに当たります。ピアノで言うと真ん中辺りのA。低い方から4番目のラの音です。(ギターの楽譜は1オクターブ高く表記してるのでそこは注意)
ピアノに当てはめるとギターの音域って真ん中より低い方なんですよね。でも歪んだ音なんかはもっと高く聴こえたりしますね。それが倍音てヤツです。ハーモニクスで出せる音が最も基音に近い倍音で、普通に弾いてもこの成分は含まれてるんです。更に倍音の倍音というように一つの音でも様々な倍音を含んでいて、ディストーションサウンドはこの元々含まれてる倍音を増幅する効果があるので、基音以上の高い周波数がたくさん聴こえるようになります。
更にもう少し予備知識を。 基音の周波数が倍になると音程は1オクターブ上がり、半分になると1オクターブ下がります。5フレットのハーモニクスは開放の2オクターブ上が鳴るので、5弦5フレットのハーモニクスが440Hzなら開放は110Hz。同じく1弦5フレットが440Hzなら、その12フレット上の17フレットは880Hzになる計算ですね。
さあ、なんとなく見えてきたでしょうか。ようやく前回からの続きっぽくなってきたかな?
ではいざ音作り。まずはアンプのトーンコントロールを見てみよう。
価格帯や仕様によって様々だとは思うけど、だいたいBass Middle Treble の3コントロールが多いかな。低音域、中音域、高音域の各帯域に分けてそれぞれ調整出来る。カットのみ、もしくはブースト/カット両方出来る物があるんだけど、ポイントはそこではない。それがどの辺の周波数なのか?が肝心なんです。
かつての国内メーカーは、その数字の選択に当たってオーディオの概念を参考にしていた節が見受けられる。僕はこれあまり好きではないのだけど、楽器にオーディオのセオリーを当てはめてもそういい事は無い。
オーディオは基本録音された物を再生するのが仕事。音源はオーケストラから環境音楽まで、さまざまな帯域が使われてる。当然それを再現する機材は、あらゆる帯域を再生出来なければダメ。しかもクセの無いように均一に。
しかしこれが楽器の再生となると、なんとまあ全く向いてない。いわゆるペタンコな音になる。音抜けと言われる”通る音”や一番目立ってほしい所がフラットに、更にあまり必要無い超低音域が出過ぎると、ホント表情の無い平たい感じになってしまう。
これはアンプを音作りに使う物として捉えてなかったという事。ギターの音を忠実に再生する物として考えてたんだろうね。
話しを戻して、今どきのエレキギター用のアンプはだいたい味付けがされていて、それがそのメーカーのカラーとなっている。その音色を丸くしたり鋭くしたり調整するのがトーンコントロールやイコライザーで、各ツマミにどの辺の周波数をイジルかが設定されている。
ただ、その数字は殆どの場合表記が無いので、実際に音を聴いて確認するしかないが、優れたメーカーは(どことは言わないが)このポイントを実に上手く押さえてる。どの帯域をどういじったらカッコイイ音になるか解ってる。コレ、ヴィジョンをしっかり持ってないと出来ないです。目指すゴールが解ってる。ここがメーカーのプライドにも繋がるんだけど、この部分では欧米には敵わない気がする。あくまで個人の感想ですが。
この周波数のポイント。アンプではだいたい3つか4つくらいだけど、それをもっとたくさんいじれる様に特化したものがイコライザーと呼ばれる機材。低音から高音までをいくつかの周波数で分けて、それぞれブースト/カット出来るようにした代物。昔はストラトでレスポールの音が出せるとかいい加減な触れ込みもあったけど、ウソでもイメージはしやすい表現だったと思います。実際ストラトの線の細さをある程度は補えるし、ディストーションで倍音が増えた後ではかなり劇的な音作りが出来るのだから、レスポールの音が出なくてもみんな詐欺だとは言わなかった。良い時代だ。
そのイコライザーにはグラフィックとパラメトリックの2種類があって、違いはポイントになる周波数を予めたくさん決めてグラフのように並べたのがグラフィック。視覚的に解かりやすいのが売り。その数をバンド数と言って、コンパクトエフェクターで6バンドか7バンドくらい。ラックマウントなど業務用機器では31バンドとかもある。
ポイントはだいたい倍々(1オクターブ)で取るので、6バンドなら100Hzから200、400、800、1600、3200、7バンドで6400Hzが加わるかってトコ。ギター用ではこの帯域で十分。
だが、問題はイジリたいポイントがそこに無い場合だ。間とかね。特に800Hzから1.6kHzの間にはギターにとってかなり重要なポイントが詰まってる。好みにもよるが、他はともかくココがイジリタイってポイントはほぼこの間にあるといってもいい。
そんな痒い所に手が届く使い方が出来るのがパラメトリックイコライザー。グラフィックが固定された一つの周波数に対してパラメーター1つ(ブースト/カット)しか無いのに対し、パラメトリックはバンド数こそ少ないが周波数を自分で決めてブーストorカットが出来るというもの。使い方はあらかじめブーストするのかカットするのかを決めて、音を聴きながら周波数を可変させる。ブーストした山やカットした谷の幅(カーブ)を変えられるものもある。これをツマミ一つにしたコンターというコントロールはアンプにもよく装備されてるが、そういう仕組みなのよ。
周波数をいじれるのはすごく直感的な音作りが出来るので、僕は断然パラメトリック派なんですが、現在コンパクトエフェクターではあまり製品が無さそう。昔はBOSSのPQ-4とかあったけど、今や中古で¥30,000くらいするみたい。オドロキ😱
で、この話しの最大の山場? ディストーションサウンドに於ける最もイジリたい周波数はどこか?
僕の経験側では1.2k前後かな。もちろん他の帯域もいじるけどそれは必要に応じて。そうではなくその作りたい音の基本の部分は1.2kHz辺りにある事が多いです。あ、もちろんギンギンのディストーションの話ですが。
ではここをどうするか? この1.2kHz。
これカットするんです。ブーストじゃなくてカット。カーブは狭め過ぎないようにして、レベルを4dBくらいマイナスしてからフリークェンシーを回して心地よい所を探す感じ。いわゆるドンシャリサウンドですね。歪みの肌理が細やかになって扱いやすい音になります。
ドンシャリってメタル専門サウンドのようですが、それは他の帯域次第。200~400Hz辺りと5k~8kHz(ここはホント好み)辺りをブーストすると結構メタリックになります。
さて、いかがでしたか? 周波数知ってると結構違うでしょう? 慣れてくるとその音がどんな音なのか表現出来るようになるし、どうしたいのかもイメージしやすくなります。ケーブルの音の違いなんかもイメージ出来るかも。
マルチエフェクターやモデリングものを扱う時にもきっと役立つので、ぜひ活用してください。
それではまた。