円錐指板と指板R
さて先日、某楽器店さまにてちょっとしたギター談議になりまして、話題は指板修整時のRの付け方について。大抵のスタッフの方とはあまりこういう話題にはならないものだけど、中にはギター制作スクール出身のスタッフさんもいて、こういった方との会話はかなりマニアックになるので、とても楽しい。
で、このブログへのアクセスキーワードにも、よく”指板R”とか”円錐指板”とかが入ってるが、この指板R、一般の方はどのように受け止めてらっしゃるのだろう。てな訳で、今回は指板Rの話しをしよう。
今どき指板は殆どが円錐指板だと思うのだが、この円錐指板がどんなものかをご存知の方はどの位いらっしゃるんだろうか。初心者の方はまず知らなくて当たり前な事なので、基本的な所から説明してみよう。
2012.02.03 追記 次項2010.10.02の記事の冒頭でも触れてますが、”今どき指板は殆どが円錐指板”では無いようです。ちょっとややこしくなってしまいますが御理解の程、よろしくお願いします。
以下本文に戻る
クラシックギターやスティールギターを除くほぼ全てのギターの指板には緩いカーブが付いています。もちろんこのカーブはただ適当に曲がっている訳ではなく、真円の一部、つまり弧になっているんです。それを数字で表すのに"R"という言葉を使い、400R等と言ったりする。この場合、正しくは400ミリRだがインチ表記すると約16”R(406mmR)と桁が違うので単位は省く事が多い。Rは"Radius"(半径)の頭文字。つまり、400Rといえば、半径400mmの弧という意味ね。
そして、このRはローポジションとハイポジションでは異なっていて、ローよりもハイの方がRが大きい。これが何故かを理解するには、ナット部とサドル部の弦間ピッチ(弦の間隔)の違いに注目すればよい。この両者が同じ間隔なら指板Rはローからハイまで均等でよい。例えばナットのピッチが45mmならサドルも45mm。これなら円柱の一部を指板に見立てた状態と言えるので、各弦の直下は真っ直ぐになる。
しかしこれでは演奏性に無理がある。ナット側のピッチが広くなれば弦を押さえにくいし、サドルピッチが狭ければ指が入らない。それぞれ使いやすい弦間ピッチがあるんです。
それ故、弦はナット側からサドル目がけて放射状に延びる事になり、それに合わせてRも大きくなっていく訳だ。これが円錐指板。均等なRの指板も存在するが、仮にその円柱指板に放射状に弦を張るとどうなるか? 空き缶にでもスケールを当ててみると判るが、弦の直下は直線にはならない。逆反り状のカーブを描いてしまい、いわゆる真っ直ぐな状態というのが3,4弦の間のみとなってしまう。
では、カタログ等に表記されている指板Rは一体どこの数字か?。僕は工場の経験は無いので定かではないが、おそらく12F上ではないかと思う。少なくとも僕はそう設定して作業してます。そうするとナット部とサドル部でのRは果たして幾つなのだろう?。これが今回の本題でもある。
上の図は僕がイメージしてる円錐指板の原理。各ポジション毎にある三角形は、円錐の中心を頂点とした二等辺三角形になってます。底辺に当たるABは1〜6弦間の距離、AC及びBCはそのまま半径に。それぞれの三角形は尺度の違いだけで同型なので、比率によって各ポジションのRが計算出来るって仕組み。表計算ソフトで簡単にいろんなバリエーションの比較が出来るので、暇な人はやってみてほしい。必要なデータは
1. ナット部の1〜6弦間の幅
2. サドル部の1〜6弦間の幅
3. 12Fの指板R
この3つ。この1.と2.から12F上の1〜6弦間の幅が得られる(足して半分にすればよい)ので、これを4つ目のデータにする。因みに3.の12FのRだが、これは指板修整時に於いては後から変更が出来ない部分なので、基準値として先に決定してしまう。
これで12Fでの底辺と二等辺の比率が得られる。得られた数値と求めたいポジションの1〜6弦間の幅から半径が出て来る訳だ。応用で5Fと24Fも計算出来るようにしておくと面白い結果が得られる。
試しにやってみよう。
それでは。