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Rune guitar

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ギターリペアマンの視点から、仕組みやパーツなどにまつわる話しを綴っています。

スーパースイッチ

 配線作業を自身で行う方は多いと思う。前回のノイズの話でも少し触れたけど、ギターの配線は単純この上ない。ピックアップから始まり、しっかり線を辿れば途中いくつかの分かれ道があるものの、出口のジャックに割とすんなり到達出来るハズ。通過するパーツも基本的には入り口と出口なので、案外推測でもなんとかなる。
 ボリュームポットなんかは中が見えないので少々解りにくいが、ストラトやテレに使われているレバースイッチは接点がむき出しなので、レバーの位置と接点の関係がとてもよく解る。
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という事で今回のネタはレバースイッチ。

 このタイプのスイッチで一番有名なのは画像右のCRL製の物。70年前から同じ造りで今もハイエンドクラスのギターに使われてる。基板の素材がちょっと変わったくらいでほぼそのまんまの姿。しかも今だ現役トップというバケモノスイッチ。
 ところが ”そんなんでいいのか⁉” と言わんばかりにフェンダー製品に於いてその座を奪ったのが画像左のOAK社製スイッチ。最近はこのOAKのスイッチがメインで、CRLはヴィンテージスタイル扱いになってる模様。もちろんCRLとの互換性もあるが、この画像の物はそれよりも複雑な4回路5接点という特種な配線が可能なタイプ。その名もスーパースイッチ。これについての話をしようと思う。
 24/07/29のコチラの記事にも関連内容が載ってるのでよかったら読んでみてください。また最近3シングルコイル用にスーパースイッチを使った配線ガイドを作りました。いわゆる直列配線ですが、スーパースイッチを使った使いやすい回路になってます。ダウンロード商品ですがよかったらこちらの商品解説ページもごらんください。https://runeguitar.cart.fc2.com/ca3/78/p-r-s/

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 レバースイッチの働きは複数のラインから一つをセレクトするもの。通常は各端子につながれたピックアップなどの信号を一つ選んで出力の端子に送り出すのが仕事。レバーと連動するパーツが端子と端子を繋ぐ。その動きをイメージ出来るとよいのだけど。
 画像のCRLは4つの端子が入り口3:出口1と配置されていてこれで1回路。裏側にもう一回路の計2回路入って1つのスイッチなのに対して、スーパースイッチは1回路に6つ、5:1になってるのが特徴。それが4つ入ってるんだけど、これについては時系列に沿って説明しよう。


 かつてCRLのレバースイッチは3ポジション。54年当時はストラトも3ポジションで、各ピックアップはそれぞれ単体で使う設計だった。CRLのスライダーは接点部分が幅広になっていて、切り替える際に隣の端子に触れてから元の端子と離れるリレー方式。下の画像赤丸の部分。スライダーが二つの端子にまたがってるのがそれ。
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 ピックアップ切り替え時に一瞬でも音が途切れてしまわないようにそうなっているのだが、その時の2つのピックアップが同時に鳴っている音(いわゆるハーフトーン)がイイネって事で、75年頃に各ピックアップの間のポジションで止まる5WAYスイッチに改良される。これで二つのピックアップを同時に鳴らすパラレル接続が標準仕様となり今に至る。
 そして80年代頃にはリアやフロントにハムバッカーを積んだストラト系ギターがメジャーになり、複数のピックアップを同時に使う時にハムバッカーのコイルタップが自動でONになる配線も出てくる等、ギターの配線はより複雑なパターンが求められるように。余談だがハーフトーンはストラトの為にあるような言葉なので、広くはミックストーンとか違う呼び方の方がよいと思う。レスポールでハーフトーンとは言わないし。




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 そんなピックアップの接続バリエーションの一つに、2ハムながら5ポジションを使うパターンがある。リア、フロント単体以外の三つのポジションにミックスはもちろんタップサウンドやボビンの入れ替え等々、各メーカー様々な配線パターンを割り当ててるが、残念ながらこれは普通のセレクターでは不可能。
 スーパースイッチはその為に登場したと言ってもいいくらい様々な配線が可能なホントにスーパーなスイッチなんだけど、構造的にはそんなに複雑なものではない。CRLのリレー部分を独立した端子にして、2回路を4回路(つまり同じ基板を2枚)にしただけだ。
 とりあえずイメージしやすいように各端子に勝手に番号を振ってみました。Cはcommon(コモン)といって通常なら出力になる端子。1~5は、セレクターをフロントにした時に1がコモンと繋がり、5がリアになるよう”コレ”が順番にズレていく。そんな動作になります。
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 考え方としては、ハムバッカーの2つのボビンをバラしてリアとフロント計4個のボビンを独立したコイルとして扱う感じ。各ポジション接続する端子は1つだけなので、このポジションではこのコイルを使うという感覚で1回路1コイルとして考えるとわかりやすいかも。とりあえず基本としてね。
 しかしそこにシリーズパラレルの切り替えやコイルタップなどを取り込んでいくと、パターンによっては回路が足りなくなることもしばしば。そんな時は1回路辺りの役割を増やしたり、5in 1out を 1in 5out として使うなどの工夫で結構クリア出来る事もあるので、パズル感覚で考えるのも楽しいかも?
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 画像は2ハム1シングルのいわゆるHSH配列の配線パターン。先ほどの画像と上下が逆なので1~5の番号に注意してください。
 1.フロントハム 2.フロントタップ+センター 3.センター 4.リアタップ+センター 5.リアハム という構成。これはCRLなど普通の5WAYでも可能なパターンだけど、それをスーパースイッチでやると仕組みがイメージしやすいかなと。
 回路の節約の仕方もわかりやすい。例えばリアとフロントは被る端子が無いのでまとめてしまえばそれで1回路空きが出るとか、リアフロントとも隣の端子へのジャンプをやめて、代わりにタップの線を持ってくればタップアース用の1回路(黄色アースが繋がってる回路)が空くとか。この場合、タップ方法が変わるので、タップ時に鳴るコイルが入れ替わる。外側コイルが内側コイルになるなどそこは注意。
ただ、うまく使えばあきらめていた配線パターンも可能になるかもしれない。


 最後に割とよく使われるパターンを紹介しておこう。2ハムでフロント側を1とした5ポジションの配列パターン。パラレル、タップ、シリーズなどいろんなバリエーションが得られるパターンなので、興味のある方はぜひトライしてみてほしい。
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 画像の左側にレバーを倒すとリア、右に倒すとフロントになる位置関係。フロントのHOT1と2はタップ時のコイルをリアとは極性の違う組み合わせにする為のもの。リアフロントとも同じタップ方式だと、同メーカーの場合ハムキャンセル効果が得られなくなるので、この場合フロントは1コイル目、リアは2コイル目を使うようにしてあるという事。
 DUNCANのピックアップを例に挙げると、リアHOTは黒のワイヤー、リアTAPは赤と白、緑と裸線はアース。フロントHOT1は黒、フロントCOLD1は白、フロントHOT2は赤、フロントCOLD2の緑と裸線はアースへといった感じ。
出力はマスターボリュームポットの3番に行けばOK。

この配列は 1.フロントハム / 2.フロントタップコイル1 / 3.フロントハム+リアハム / 4.フロントタップコイル1+リアタップコイル2 / 5.リアハム というパターンになる。
 フロントのタップはミックスせずにシングルコイルのように使うところがポイント。ハムキャンセルは効かないがパラレルミックスよりもやや音が太く、意外とフロントハムをタップ状態で使ってる方はいらっしゃる。噂だがエディーヴァンヘイレンもそうだとか?


 そんなこんなでスーパースイッチの話でした。
さあ、配線の沼へいってらっしゃい。

by Rune-guitar | 2023-05-03 17:47 | guitar repair

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