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Rune guitar

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ギターリペアマンの視点から、仕組みやパーツなどにまつわる話しを綴っています。

アコギの弦を張る時に

 最近、お客様との会話で出た話題で重なるものがありました。

 アコギの弦を交換する時に、ボールエンドの向きは決まりがあるのか?

 これ、今までもいろんな所で何度も取り上げてるネタなんですが、改めてお話ししてみようかと思います。


 ボールエンドの向き。まあ大雑把に言えばどんな向きでも張れます。ピンが浮いてくるとか、チューニングしているとピッチが下がってくるなどは、ボールエンドの向きではなく位置だったりピンの溝だったり、少し違う理由になるのでここでは割愛しますね。
 今回の話しは楽器を長持ちさせる為の工夫としてこうすると良いよって内容なので、初心者の方に限らず皆さん読んでいただけるとうれしいです。

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 まずこちらの画像、ギターのブリッジ部分を内部から見たものです。台形の板はブリッジプレートといいます。穴の部分、ボールエンドに注目してください。これ、本来は埋まっててはイケナイんです。古いギターにはよくあるのですが、ホントはボールエンドがプレートに引っかかる様に外に出てるもの。
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 こういうめり込んだ状態では、大抵ピンも大きく変形してます。ボールエンドがプレートにめり込む際にピンを外側に押しやるからです。
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 まあ弦の張力はアコギの場合1本あたり10kg越えなので、この小さな面積にそれだけの荷重がかかると痛むのは避けられません。
 しかし、負担を軽くする事は出来ます。それによって部品が長持ちすれば、修理に出す時期も遅らせる事が出来ます。ギターがそれだけ長生き出来るのは、僕らもうれしい事です。
 そしてその工夫はとても簡単ですが、その前に破損のメカニズムを説明しておきますね。

 この穴が広がっていく症状は、ボールエンドがブリッジプレートのどこにどの向きで接しているかで進行が違います。図にしてみたのでご参照ください。

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 本来のボールエンドの向きがコチラ。
ピンに対して平面側が接しています。この場合ボールエンドはプレートにしっかり引っかかります。
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 一方90度ズレてボールエンドの側面がピンと接すると、曲面がピンとプレートの僅かな隙間に入り込みやすくなります。ピンに付いてるテーパーによって穴の周りには隙間が生じてるんですね。
 この隙間分ピンは外側に押しやられます。するとボールエンドは広がった隙間に更に入り込もうとします。

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 この負のスパイラルでボールエンドはどんどんプレートに埋まっていきます。ピンも変形します。
 プレートには比較的硬めの材が使われていますが、進行してる個体ではプレートを突き抜けてトップ板さえも貫通してしまいます。トップ板のスプルースは軟らかいので、すぐ一番外側のブリッジベースに到達し、割れや剥がれなどを引き起こす原因となります。

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 ブリッジベースの厚みやサドルの高さによっては、弦の巻きの折返し部分がサドルに乗っかってしまい、正しい弦高にならなくなったりピッチが変になったりします。

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 そうならない為の工夫は、弦を張る時にボールエンドを正しい向きにする工夫は、折返し部分を画像の向きに曲げる事です。巻終わりの出っ張りがスパイクにならないよう外側に出来れば溝に引っかかりにくいです。

 こうしてやるとボールエンドを穴に通す際に平面をピン側に向けてやる事が容易になります。
 因みに2弦(.017とか)はあまり急に曲げると巻きの所で折れる可能性があるので僅かでよいです。
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 この向きによるボールエンドの作用をもう少し詳しく。
 図にしてみたけどイメージ伝わるかな。
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 弦はチューニングされるとナット側に引っ張られますが、ピンが刺さってないとボールエンドは矢印の向きに動きます。ピンがあればブリッジプレートに引っかかってそのまま上に上がろうとしますが、ピンが無ければ外れて穴から抜け出ようとします。
 ピン穴に弦溝が切られてるマーチンなどはまだいいのですが、溝の無いギブソンなどはちょっと不利かも。
 ボールエンドの向きはこの作用に影響してるんです。

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Aは曲面が接してる場合。
穴に溝が有ってもボールエンドの側面がそれよりも内に来る為、ピンは外側に押され隙間が広がります。

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BはAとほぼ同じですが、ピンの溝にボールエンドが入り込んでる状態。ピンの溝自体が開いてしまい、ピンのダメージも大きくなります。

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そしてC。これが一番ピンを押し出す作用が小さく済みます。マーチン型なら弦が穴の溝に収まりやすく、張力はそのままプレートにかかるので、ピンへのダメージも減ります。
溝無しでもピンを押し出す効果はAやBより小さいですが、出来ることなら溝を切るなどすると良いですね。
 まあ、ピンを使うアコギでは全てこの向きに統一でOKです。


さて、こんなミクロの話しではありますが、少なからず良い影響はある訳で、大した手間でもないですから、一つ取り入れてみてください。
あ、必ずそうなっていないとイケナイって話しじゃないです。そんな事に囚われてしまっては本末転倒なので、一応手間はかけたぜくらいの緩さで良いです。壊れたら直せば良い。直す際に少なからず音に変化が出ますが、それも当たり前の事。だからこそ長持ちさせたいですよね。

最後に。以前海外のルシアーの方が、動画でやはり弦の根元を曲げるシーンを見ましたが、なんだか今回の話しとは意味合いが異なるようなので、それとは別でお考えください。曲げる位置も向きも全く異なるので、一緒にすると間違った情報になりかねませんから。

 曲げる場所はサドルに乗る位置よりもボールエンド寄り。これは間違えないように。

それではまた次回。


by Rune-guitar | 2023-06-28 22:03 | guitar repair

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