鳴りに影響が出る造りの一つにネックグリップの厚みがありますが、薄ければ音も平坦な感じになるし、厚ければ芯のある太い音になります。その中でちょうど良いバランスの所がある訳ですが、太いネックが好きな方(音も込みで)にそれを薦めてもあまりその方のメリットにはならないかもですよね。
また、演奏性とまでは言わないまでもヴィジュアル面も近いところがあります。ヘッドストックの大きさやペグの重さなどは、低音の出方を左右する要素を持っています。でも’60sのストラトが好きな方に'70sのラージヘッドの方がローが出るとか薦めても、やはりそれは違うと思うんです。クラプトン好きな方にリッチーを薦めるようなもので、仮にもっとローが欲しいと言うならば極力別の方法を提案します。外見が持つ力は大事ですから。
そんな風に、鳴りというのはそのギターの個性のほんの一部だったりするので、良いに越した事はないが縛られるのも煩わしいものです。そして今回のお題はセッティングのやり方ではなくて、セッティングによってある程度の鳴りは稼げるという事をお伝えしたい。
僕は楽器店勤務時代がそこそこ長かったので、入荷したてのギターに触れる機会なんてそれこそ毎日だった訳ですが、それ故に新品の同型ギターでも鳴る(レスポンスが大きい類)個体とそうでない個体があるのは、セッティングの違いも大きいなとよく思いました。
もちろんボディーとネックの重さバランスだったり硬さによる共鳴ポイントの近さなどの要素はあるでしょうが、もっと基本的な部分で良く感じる個体となんだかピンと来ない個体とがいるんです。なんででしょうね?
その原因になるのは大抵ピッチです。普通にチューナーで合わせても、和音を弾いた時になんか平べったい。それときれいに歪まない。自分下手になった?くらい思います。いずれも単音ではあまり感じないけど、ギターの演奏なんて大半がコードやリフなど和音ですから、最初の出音で?となる事もあります。
これはもう有名な現象ですね。オクターブピッチ(イントネーションピッチ)が合っていないとこういう感じになるんです。初心者の方はまだそこまで意識が行きにくいので、なかなか上手くならないなと感じていても、それはピッチのせいかも。もしかするとこの調整をちゃんと整えると実は上手くなっているかも。それくらいピッチがちゃんと合っている事は大事なんです。なんたって楽器ですから。
そしてそこがちゃんとしてるギターは明らかにレスポンスよく感じます。つまり鳴りが上がったように感じるんです。
当然どのギターも工場で調整されてるし、店頭でも必要に応じて調整はされてます。でも購入後時間が経つにつれ、木だから少しずつ動いたりすり減ったり、弦のゲージを変えたり掃除した際にネジが回ってしまったりで、セッティングはどうしても変わってくるもんです。そしてその変化があまりにも少しづつなので、いつの間にかそういうものになってしまっている。これすごく多いと思いますよ。
ウチでお預かりしたギターも細かい調整までやると結構皆さん違いに気づかれます。元からそのポテンシャルは合ったのに発揮出来てなかった。そんな状態なんでしょうね。
そのオクターブピッチは、合わせ方だけならあちこちにいろんな方法で載ってますが、もっと突っ込んだ話しをするとやはり根本の部分がすごく大事でもあります。前提となる部分ですね。
まず最低限ネックの反りが適正である事。次にナットの高さ。ここが曲者でピッチが合いにくい原因の一つ。しかも自分でいじれないタチの悪いところ。
で、この2点がOKなら初めて弦高の設定が出来るのですがオクターブを見るのは更にその後なので、もしここまでの調整が必要な場合プロに任せた方がよいです。少なくとも一回は。
しかしオクターブ合わせるのになんでそんな大事(おおごと)になるのか?とも思いますよね。これ理由があって、作業しててよく感じるのですがナットの溝が浅い個体が非常に多い。要するにナットが高い。バラツキはありますけどね。これによるセットアップの差が先述の新品の個体差かなと思います。
なんでも新品のギターは店頭でどんな弾き方されてもある程度使えないといかんので、多少強く引いてもビビらないようにナットも弦高もチョイ高めになっているという話しを聞いた事があります。後は素材の関係で(プラスティックは減りが早いから)とか。
まあとにかくナットが高い個体はそもそもピッチが合いにくい側面を持ってしまうんです。こんな風に。
ナットが高い=弦がペグに向かう角度がキツくなる=溝での摩擦係数が上がる=ナット~ペグ間の弦長が加味されなくなる
ナットが高い=弦とフレットとの距離が遠くなる=押さえた時その分のテンションが増加する
この2つは共にイントネーションピッチが上昇する原因です。これらがあるからナットの溝は最低限の高さでないとダメ。シャープしやすくなるのは主に太い弦。プレーン弦と巻き弦それぞれでね。まあ弾き方によって多少変わるけど、明らかに高すぎるナットは修正するべきです。
つまりセッティングとはこういうおかしな所を一つ一つ整えていく事なんです。順番にね。まずロッド、そしてナット溝、弦高、オクターブピッチ。これで1周。
よく工房でも話すんですが、弦高下げるだけでもどっか1か所だけいじるってことは殆ど無くて、たいていあちこち見るんです。なんで高いのかによっていじる所も変わるし、その影響が次の所に現れるからまたいじる。ストラトなんか1周じゃ済まない事も多々。
今回の話は具体的に何をこうするとかではなく、考え方のようなものですかね。とにかく全部つながっていて、弾きやすく尚且つピッチがうまく合う落とし所を見つける。それが良いセッティングなのではないかと思います。
和音がきれいに響くと音圧も上がるし歪みも汚くならないので、音作りも含めて演奏性も上がります。これを鳴りが上がったと見るのは僕の偏見なのかもしれないけど、ピッチというものをあまり気にしていなかった方にはぜひ一度体験していただきたいです。
それではまた長話しにお付き合いください。
ps
手前味噌ですが、ウチのオリジナルギターにはその辺のノウハウが詰め込まれています。
よかったらご覧になってください。
よろしくお願いいたします。