ギターの部品は基本消耗品です。弦はもちろんナットやアコギのサドル、ペグなんかも寿命は長いけど消耗品ちゃ消耗品です。そして本日のお題、フレットもこれは紛れもなく消耗品です。見た感じ取り外せなさそうだし金属だし、交換するものなのかも疑わしいですがペグよりは寿命短いです。弾き方にもよりますが、早いと2〜3年くらいで交換になる方もいらっしゃいました。今回はそんなフレットについてのお話です。
フレットを交換するまでには前段階があって、まずよく押さえるポジションから減りが目立ってきますよね。そのまま使い続けるとある時点で音や演奏性に支障が出てきます。あまり使わないポジションの方が高いので音がバズる(ビビる)。チョーキングした時に凸凹感が気になったり音が途切れたりなどなど。
この場合まずはフレットのすり合わせで対応する事が多いです。均一にならしちゃうんですね。当然高さは低くなりますが、元の高さと減った量との差があまりないとか、元の高さがそれなりにあるワイヤーだった場合はこれでOK。
ところが元から低いワイヤーだったり減りがあまりにも多いと、すり合わせた後が非常に弾きにくくなる事があります。この辺は数字で表した方がわかりやすいかな。
フレットの形状はだいたい半円型をしているものが多く、幅と高さは直径と半径の関係になってます。つまり幅(width)2.0mmのワイヤーは高さ(height)1.0mmといった具合。W:2.4ならH:1.2とだいたいそういう形になってます。
注:高さをクラウンと表記する事もあるようですが、個人的には形状をイメージしてしまうのでHを使ってます。
メーカーさんのサイトにはサイズが公表されてるので詳しい数字はそちらをご覧ください。終わりの方にリンク張ってます。
で、みなさんが知りたいのはこの数字をどう見るかですよね。
一般的によく言われているのは ”高さが低いと弦を押さえにくい” これが一番かな。弦を押さえる時に指板も押さえるから、チョーキングの時にはちょっと余計に力が要るとかビブラートかける時に滑りが悪いとか、バレーコードなんかもそうか。
やはりフレットは高い方が弾きやすく感じますが、高さ故にスライド時に躓くという声もあります。加えて押さえる強さでピッチが変わりやすいというデメリットもありますが、これは慣れてしまえば大した事無いです。
一方で幅はアタック音に微妙な違いが現れます。これは幅というよりも頂点のR(弧)の大きさとして見るべき。当然高さが上がれば幅も広くなる訳で、極端に言えばどんどん平らになっていくんです。
そうすると点が面になるというか、弦が接している部分が多くなる。振動している最中にフレットに当たって、あまりに平だとシタールのようなミョ~ンという異音が出たりします。つまりはシャープさに欠けるトーンになる。
まあこれがハードロックなどのディストーションサウンドがメインの場合はアンプからのトーンもあるからたいして問題にはならないし、逆に金属の質量が増えている分よりメタリックな音にもなっているので、デカいフレットの人気はそんな所でもあります。
僕の個人的なカテゴリ分けで言うとミディアムサイズのW:2.4、H:1.2が中央値で、それよりもアコースティックな感じや和音の分離を重視するならより細いサイズ。弾きやすさや倍音の多いトーンが欲しいならより太いワイヤーをお勧めします。細い順にナロー(W:2.0、H:1.0〜)、ミディアム、ミディアムジャンボ、ジャンボ、エクストラジャンボ(〜W:2.99、H:1.47)なんて呼んだりもしますが、結構適当なので数字の方が間違いないです。
また、サイズには幅と高さの他にTang(タン)という部分の厚みがあります。足とか呼んでますが指板の溝にはまる所ですね。ここは僕ら施工側が気にすればよい所なのでプレイヤーの方にはあまり関係ないですが、ミリ、インチ含めて何種類かあり、ギターとの組み合わせによってはおすすめしないパターンもある事は知っておいて損は無いです。
話しを戻して肝心の弾きにくくなる高さはというと、僕は0.6mmで交換を勧めています。例えばすり合わせを繰り返して現状の高さが0.7くらいだった場合、もしくはあまりに減りが大きい場合は、完了後の高さが0.6を切る事もあり得るので、そこはあらかじめお話ししておきます。減りは消えても弾きにくくなってしまうのでは意味無いし、またフレットの頭もより平らに近くなっていくので、シャープさも欠けていきます。フレットの寿命はそんな所が判断材料になってる訳です。
余談ですが、よく見るusedでフレット残り何割とかの表記は元の高さが判らない事が多いので、見た目どのくらい減ってるかをイメージする方がリアルなんじゃないかと。元が1mmと1.4mmでは同じ割合でも実用では判断が分かれます。
では、いざフレットを交換することになったら何を考えればよいか? 元と変わらないのが良ければ、同じサイズの物でと伝えればだいたい間違いないです。幅から元の高さは決まるので。
しかしたまにちょっと特殊なワイヤーもあるので、こんな風に使いたいとイメージなりを伝えるのも良いです。こちらからおススメも出来ますし。
たとえばジムダンロップの6105というワイヤーはW:2.29×H:1.40と、幅の割に高さのあるタイプです これは高さは欲しいが音はシャープさが欲しいなんて場合に選ばれる形状で、スティーブヴァイの使用で有名になったワイヤーですね。
このタイプはすり合わせで高さが低くなった場合に元が判断しにくいので、サンプルから確認して選んでいただく事が多いワイヤーでもあります。
6105に限らず好きなアーティストが使ってる物や、好きな音楽に向いている物という見方も良いと思います。アコースティックギターなど音の粒がハッキリ出てくれた方がよいなら細目で、チョーキングもしないならナロー一択でしょうし、歪んだトーンでよりハードなサウンドならジャンボはやはり似合います。
いずれも音と演奏性のバランスで考えると、好みから理想のワイヤーを絞り込めますよ。
それともう1点、音にも演奏性にも関係するのが材質です。一般的には18%ニッケルシルバーというのが使われてますが、最近ではステンレスがいいとか聞いた事ないでしょうか。本来は錆びないのでいつも表面がスベスベして滑らかな弾き心地が売りだったんですが、その硬さ故に音も硬い。それもかなり。
随分前になりますが市場に出た当初はかなりジャンルを選んだワイヤーでした。しかし最近では硬さを調整したステンレスワイヤーも多くなってきて、音色面でも選択肢として十分な存在になったのでどっちがいいか迷う事も。
また硬度次第ではありますが、寿命が長いのもメリットとして大きいです。とにかく減らない。硬いヤツは軽く倍以上は持ちます。交換時にはやや割高ですが(施工が大変&工具が持たない)、長い目で見るとコスパ高いです。
最後に主なメーカーの特徴を挙げておきます。参考にしてみてくださいね。
国産のフレットメーカーで、種類は多くはないが絶妙なポイントを押さえたラインナップ。修理用に足の幅や高さを微妙に変えた型もあるので、僕にはとてもありがたいメーカー。国産ギターによく使われているワイヤーです。(今は国産ギターが少ないので微妙な表現になってしまうが)
アメリカのスチュワートマクドナルドというギターパーツや工具などの通販サイトで、オリジナルのフレットワイヤーがラインナップされてます。僕の所では#147、#152をよく使ってますが、60年代ギブソン用とかバンジョー用なんかもある。足がインチサイズでしかもちょっと太くなってるので、USA物のリフレットには相性が良い。
交換用フレットワイヤーの老舗みたいなメーカー。ジムダン6100や6000といえばイングヴェイ他多くのハード系ギタリスト御用達のジャンボフレットの代名詞。とりあえずデカいフレットの走りですが、ステンレスではないものの硬度が高く(普通の硬度もある)、その長寿命と演奏性を知らしめたメーカー。
サイズのラインナップは豊富だけど入手となるとやや限定されるかも。
日本屈指のカスタムギターメーカー。オリジナルパーツはこだわりの塊で、トレモロユニットやジョイントプレートに加え、ステンレスのフレットワイヤーは人気商品。硬さ違いのスピードタイプとウォームタイプがある。ウォームタイプはニッケルシルバーとの音の隔たりが少ないので、錆びないのはありがたいけど音が変わるのはイヤという方にはお勧め。リンクはステンレスフレットの方です。
おそらく今一番名前を聞くフレットメーカー。サイズ的にはジムダンの何々タイプみたいに、形状はほぼまんまのものが多い。ニッケルシルバーとステンレスの2種類があって、人気に火がついたのはステンレスの方から。そのステンレス、硬さはあるのだけど音に影響が少なく、ギラギラした感じがあまり無いのでアコギに打つ人もいるくらい。立ち上がりや切れが良く、上手くなった気にさせるワイヤー。因みにウチのオリジナルギターは47095のステンレスを使ってます。
さてさて今回はお役立ちらしい話になったのではないかと。フレットは長く使うと必ずといっていいほど交換時期が来ます。それは同時にネックのちょっとした歪みを取るチャンスでもあります。なので交換後はまるでギターが生まれ変わったようにも感じるくらいのリペアになるので、交換するワイヤー選びはじっくり検討してください。この時が結構たのしいので。
それでは。