たまにね、”フレットの交換って実はすごくカンタンなんです。”ってな文章を目にする。”ちょっとコツを覚えれば...”とかね。 趣味でギターイジリをされる方は結構多い。ましてや高額のリペアなら、尚の事自分で済ませてしまいたい。そりゃそうだ。僕もそうだった。
ただね、ん〜...ネット上のこういう文章ってウソとかホントとか白黒つけるものではなくて、あくまで ”その人の場合”という参考意見として受け止めるべきなのは周知の事。でも、やはり人によっては ”えっ そうなの!?”とか ”この間、ン万も払ってやってもらったのにぃ...”などと妙な疑心を芽生えさせてしまうのではとつい思ってしまう。友人曰く、日本人は活字(出版物としての意)に弱いのだそうだが、ネット上の文字も当てはまるのだろうか?。
実際、個人が趣味でやったフレット交換とプロがお金をいただいて行う作業が同じレベルである事は殆ど無いと思う。あるとしたら、元プロかそれに近い経験をされている方の仕事だろう。そういう話ではない。
多くの方が、フレット交換と聞けばやる事は、今打たれているフレットを新しい物に入れ替える作業と思うだろう。もちろんその通りなのだが、実際の作業における最重要ポイントは指板の修整、成型にある。
そもそもフレットを交換する理由の多くはフレットの減りによるビビリ、音詰まり等だ。それをきちんとした状態にする為の大工事なのに指板の歪みを無視するなんてのは、余程の理由が無い限りナンセンスだ。アコギなんかは腰折れしてる個体も多いし、エレキでもロッドの効きが甘くなってきてるネックとか多いしね。フレット交換はそんな全体的な不具合を全部スパーッとキレイにしちゃういい機会だ。
しかし、一口に修整と言ってもどこをどのくらい落とすのか、どの辺が限界なのかの見極めは難しい。ポジションマークやセルバインディングに気を遣い(場合によってはあらかじめ取り外したり)完成時の状態を予測して、そこから弦の張力や打ち込み後の反り等を引き算したりなんだりして決めて行く。何も考えずに真っ直ぐには出来ないのだ。
その他、細かい所では ”いかにフレットをきれいに抜くか”。フレットの溝はフレットを抜く際に痛みやすい。特にエボニーとかね。それに元のフレットと新たに打つフレットのサイズの違いにも注意。同じ物を打てばいいってもんじゃない。溝が緩くなってきてる場合もある。
更に、いざ打ち込みに入っても上手くフレットが座ってくれない事は多々ある。元々の木の柔かさや脆さ、フレット自体の硬度や形状など、いろんな要素が絡み合ってる事もある。それでも2、3本打ち込んでみるとだいたい対処法が見えたりするが、こういう困ったチャンには手を焼く。とにかくフレット一本一本の座る位置が、極力均等で浮いた感じ無くピタッと指板に這うような状態を目指す。どうせ後で擦り合せるから..なんて甘い事考えてるとせっかくの新しいフレットなのに背が低くなってしまう。
注意点はまだまだいろいろある。仕事となると仕上がりの美しさなんかも問われるしね....。慣れというのはそれらを無意識にクリアしていく事なんだろうな。
年間数十本のギターをフレット交換してても尚、僕には慣れの問題とかすごく簡単などとは言う気になれないなぁ。ん..当たり前か、プロなんだから。