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Rune guitar

runeguitar.exblog.jp

ギターリペアマンの視点から、仕組みやパーツなどにまつわる話しを綴っています。

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 お得意様からアメリカンパフォーマームスタングという、ちょっとカッコイイギターをお預かりしました。なんとピックアップをジャガーの物に交換!なんかローノイズでルックスも良いぞ。
 このシリーズは従来品のレプリカではなく、あくまで今のモデルとして作られていて、いろんな所が進化してます。その中でちょっと感動したあるパーツの話しをしたいと思います。

 フェンダームスタングというと、ショートスケールで22フレットの使用感、独特のレスポンスが特徴のダイナミックトレモロが魅力ではないかな。ストラトのシンクロナイズトレモロとは一味違う掛かり方。
 使用アーティストではやはりcharさん。ムスタングをあんな風に使える人はそういないですよね。

American Performer Mustang のトレモロユニット_c0179274_00164687.jpg
 ムスタングに搭載されてるダイナミックトレモロユニットは、ストラトのシンクロナイズトレモロとは全く異なり、テイルピースとブリッジがセパレート型。テイルピース側にスプリングを2本装備して、スタッドのクビレを支点として弦との張力バランスを取る仕組み。ブリッジ側は両端から伸びた脚の先端を軸に、弦の動きに合わせて前後に動くようになっています。
American Performer Mustang のトレモロユニット_c0179274_00183688.jpg
こんな感じ。伝わるかな。
以下の画像と併せてご覧ください。
American Performer Mustang のトレモロユニット_c0179274_00180637.jpg
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3枚目違うギターだけど、ブリッジサドルの脚。
バーを動かすとテイルピースが前後に振れて、ブリッジサドルはそれに合わせてというか釣られてというか連動する仕組み。
American Performer Mustang のトレモロユニット_c0179274_00213069.jpg

 この動作はオクターブピッチやチューニングの安定を考えるとあまり良いとは言えないけど、当時の需要というか求められてる効果としてはシンクロよりも合ってたのかな。バーの可動範囲は大きい割に、ピッチの揺れ幅はそんなに広くないので、ストラトよりもやわらかでしなやかなビブラートが得られます。まあストラトは急過ぎると。

 charさんはそのダイナミックトレモロを、文字通りダイナミックな使い方してしまう訳ですが、チューニングを保つにはストラトよりも更に気を遣う事になります。

 ストラトもナットの滑りやペグの巻き、バーの操作など、いろいろ使いこなす為のワザがありますが、 ダイナミックトレモロはそもそもその造りにかなり改善の余地があります。その最たる部分がテイルピースの支点です。
 今回紹介するフェンダーのアメリカンパフォーマームスタングのトレモロユニットは、その問題に果敢に取り組んでおりまして、コレは紹介しない訳にはいかない。ここをキッチリ改善してくる辺り流石老舗です。まずは画像を。支点部分をユニット裏側から撮ってみました。
 
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 従来まではプレートに開けられた穴がなんとなく支点らしく面取りされていて、スタッド側のクビレもなんとなくでした。まあ、それはそれで一応機能するんですが、トレモロユニットの要はちゃんと元の位置に戻るかどうか。
 フローティングにセットされたユニットはどれもここが一番大事なトコ。フローティングってそのニュートラルな位置で止まるのが案外難しいんです。バランスで留まってるだけなので、0ポイント近辺はちょっとの負荷で位置が微妙にずれやすく、結果全体のチューニングがおかしくなってしまう。

新しいユニットはここをフロイドローズやwilkinson、フェンダーアメリカンスタンダードトレモロのようにナイフエッジ方式にして、支点部分で発生する摩擦を極力減らし不安定要素を取り除く努力がされてます。ここに手を付けたのはホント流石。だって他メーカーは絶対手を出さない領域だもん。

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 こんな感じ。わざわざ座ぐりまで変更してやるのが立派。この改良のお陰でユニットの動きはとても良くなってます。
もちろんその他の問題点にも改善が見られます。

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 このアメリカンパフォーマーシリーズは演奏性を重視してるので、ヴィンテージの仕様なんかには囚われません。指板Rは9.5インチと最近のフェンダーの仕様になってまして、当然ブリッジサドルも併せて変更してあります。個別の弦高調整が出来ないタイプなので、ここはしっかり9.5になってますね。ABRの汎用品だとRがイマイチだったりするので、この辺りもうれしい。
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 そして皆が困っていたアームバーを差し込む穴にナイロンブッシュが付いた!これがあると無いとで使用感がずいぶん違う。以前は横から押さえるネジの先にナイロンのパーツが着いてたんだけど、やはり今度のはアソビが少ないよ。
American Performer Mustang のトレモロユニット_c0179274_20334566.jpg

 ついでに各部の調整画像も少し。
American Performer Mustang のトレモロユニット_c0179274_00244833.jpg
オクターブ調整は普通のドライバーだとテイルピースに当たってやりにくいので、こんなヤツを使ってみた。なかなか良い。因みに出荷時には前後逆向きにマウントされてるみたいだけど、サドルの位置によってはオクターブ調整ネジが当たりそうで、気になっちゃうのでコッチ向きにしてます。

American Performer Mustang のトレモロユニット_c0179274_00250982.jpg
 弦高は個別には出来ないので、ブリッジの左右の高さで調整。ジャガーやジャズマスターみたいなスパイラルサドルにしなかったのはメリットもある。サドルにかかるテンションが弱いので、高さ調整ネジの緩みや鳴きなどにはコッチの方が強い。サドルからの弦落ちなんかにもね。

 以上、かなりざっとだけどアメリカンパフォーマームスタングのトレモロについてでした。ホントはまだ変更点や謎の部分あるんだけど。
 しかし、正直ムスタングってストラトやテレのように数売れる機種じゃないのに、新しくするからにはやるんだぁと思いました。サイクロンの時もボディー厚に合わせてトレモロブロックを短くしてたけど、向うって必要な事は作ってでもやるよね。今有るものでナントカしよう的なのは無い。

そういう物の作り方は好きです。


# by Rune-guitar | 2023-06-07 23:16 | guitar repair
 本業は楽器(主にギター、ベース)の修理ですが、こんな物もやってます。オリジナルのギター内蔵ブースター。BB741といいます。
ブースター内蔵例_c0179274_23335622.jpg

 70年代後半辺りから一世を風靡した、超有名ペダルに使われていたオペアンプLM741を使用。現在では4558などに取って代わられた感がありますが、パーツとしてはまだまだ現役。普通に買えるし104.png
ブースター内蔵例_c0179274_01385801.jpg

 このLM741を使った回路、なんというか高性能ではないけど、必要十分且つ音が痩せないという楽器用機材として失くしてはいけない所をちゃんと持っている、そんなサウンドですね。日本ではオーディオと楽器が同じ枠に入りがちですが、本質は全く違います。

 オーディオは基本録音されたものを再現するのが仕事なので、レンジを広くカバーします。低音から高音まで広く均一に。
 一方楽器用の機材はその楽器専用が多いので、レンジは狭くていいんです。いやむしろ広くしたらダメなんですね。なんだか立体感の無い音になってしまう。

ブースター内蔵例_c0179274_23341758.jpg
 あ、また脱線しちゃいましたね。
話を戻して、そのBB741を搭載していただきましたので、その時の話しを。

 BB741の回路はとてもシンプルで、調整はドライブとレベルのみ。ドライブ用のポットと、On/Off用SW。そしてオーナーさま独自のアイデアによる特種サーキット用のミニSWを追加する為、新たにキャビティーを増設。バッテリーもそこに収納します。

ブースター内蔵例_c0179274_23333285.jpg
 基板は元々のコントロールキャビティーに配置します。ウチのオリジナルギターがテレキャスと同じ小さなキャビティーなので、ボリュームポットと同じ幅にこだわってかなり小さくしてあります。これはほとんどのギターに入る筈。
 バッテリーは交換の手間を考えると、別にした方がよいのですが、更にボックス用のキャビティーを増やすのもなんなので、今回は別の手を使います。

ブースター内蔵例_c0179274_21211231.jpg
 なんだかんだ全部入ると結構混み合いますね。このギターはHSHの配列なんですが、ハムのコイルタップがちゃんとしたシングルのように使えるピックアップなので、3シングルとしても使えるように5wayレバースイッチと、2ハムとして使う為の3wayミニトグルスイッチの2通りの配線を切り替えで実現させます。
ブースター内蔵例_c0179274_09470094.jpg
 1ボリュームとレバースイッチ&ミニトグルスイッチ。下にあるのがそのワイアリング切り替えとブースターのOn/Off。そしてドライブのコントロールというレイアウト。出来る事の割に意外とシンプル。

 ブースターはなるべく元の音をそのままゲインアップさせるようになっているので、ドライブ0ではOn/Offの違いが判らないです。つまりOnのままドライブコントロールだけで操作してもよいし、ドライブ固定でミニSWでOn/Offでもよいです。内部にアウトプットレベルがあるので、ちょい上げ目でソロの時にドンとやっても良いですよ。

ブースター内蔵例_c0179274_21361889.jpg
 願わくば、大型のチューブアンプと一緒に音作りしていただくと理想的。クリーン、クランチ、リードまでほぼ手元でいけます。
 このギターのように元々守備範囲が広いと、音のバリエーションは更に豊富に。足元で操作するのと違ってステージのどこにいてもゲインをいじれるしね。


 こういう何か目的をもって回路を工夫する作業はまるでパズルの様。皆さんも何かやりたい配線があったらパズルを楽しんでください。

とりあえず、ではまた。

# by Rune-guitar | 2023-06-01 23:32 | guitar repair
 ようやくカーブについての話しになります。
ボリュームポットの構造は前回のでだいたいおわかりいただけたと思いますが、仕組みは解ってもカーブは見ても何か違いが見える訳でもないので、動画を撮ってみました。
外部リンクになりますが、見てみて下さい。
 こちらでは静止画を挙げておきます。
ボリュームポット その3_c0179274_02425742.jpg
 前回でも使ったポットの基板部分です。テスターのマイナス側を1番端子に繋いで、プラス側を直接抵抗部分に当ててみましょう。
まずは3番寄りに当てて、全体の抵抗値を示します。これは500kΩのポットですね。カーブはAカーブ。

 ここでカーブの種類について軽く触れておきますね。
 カーブとはポットを回した時に抵抗値をどのように変化させるか、用途に応じて使いやすく設定したものです。
 3種類のカーブがあって、それぞれAカーブ(オーディオテーパー)、Bカーブ(リニアテーパー)、Cカーブ(リバースオーディオテーパー)と呼んでます。どこかしらに必ず抵抗値とカーブの表記があるので、画像参照してください。

ボリュームポット その3_c0179274_03151702.jpg
 Aカーブは音量調整用として、ノブを回した際の電圧の変化を、耳で聴いた時に自然な音量変化になるようアレンジされたもの。

ボリュームポット その3_c0179274_03172042.jpg
 Bカーブは電子回路の中で、回した分だけ電圧が均等に可変するようになってます。
パラメーターの調整用として使われる事が多いですね。
ボリュームポット その3_c0179274_03174509.jpg
 CカーブはAカーブの逆の働きをするようになっていて、わかりやすいのは左利き用ギターのボリューム。動きが反対になるので、Aカーブをそのまま逆配線したのでは音量変化が極端になってしまうんですね。
 あとはエフェクターのゲイン調整なんかに使われたりしますが、需要が少ないのであまり売ってないです。

 では具体的に何が違うのか、再び分解した基板を見てみましょう。
ボリュームポット その3_c0179274_03230362.jpg
まずボリューム0の状態。1番と2番が短絡して抵抗値は0。
ボリュームポット その3_c0179274_03251946.jpg
続いて半分くらいまでいくと抵抗値が少し増えてだいたい40kΩくらい。
 ノブの目盛りでいうと5ですが、数値で見ると半分の250kにはほど遠いです。
これがアレンジされた部分ですね。回した分だけ増えるBカーブとの違いです。Bカーブはここで250kになるように出来てます。
ボリュームポット その3_c0179274_03310460.jpg
 じゃAカーブでの250kはどこか?
ここです。ノブでいうともう7か8くらい。ここで半分。

 これを各カーブ毎にグラフにしたものがネットにたくさんあるので、興味ある方は探してみてください。Bカーブは判るけどAとCはどっちか解る人にしか解らない描き方なので、まあ覚える必要もないし何となくでOKです。

 結論としてはギターに使うカーブはほぼAカーブ一択です。間違ってBを買わないようにねって事です。Bもボリュームには使えなくないけど、立ち上がりが少し急になるので早く回すといきなり音量が上がった感じになります。メーカーによってはボリューム奏法がやりやすいなどのメリットがありますが、これは使ってみて判断かな。
 また、個人的にはトーンにBは無いかな。変化の仕方がボリュームよりも更に極端になります。有効幅が狭いというか、0か10かみたいな掛かりになるので、トーンにはAカーブ推奨です。

 さて、ようやくというか最後はちょっと駆け足だったけど、ボリュームポットってこんなヤツというのが伝わればよいなと思います。
 回路を追う時は、3番が入口で2番が出口。これが基本で、ジャズベースやグレッチなど2つのピックアップを2つのボリュームでブレンドして使う事をメインとしてる場合は逆になる場合もあります。1番はいずれの場合もグランドです。
 
 次回はまだ何も考えてませんが、何かリクエストがあればお寄せください。出来るものは取り上げてみたいと思っております。

それではまた。

# by Rune-guitar | 2023-05-27 02:37 | guitar repair

by Runeguitar