人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

Rune guitar

runeguitar.exblog.jp

ギターリペアマンの視点から、仕組みやパーツなどにまつわる話しを綴っています。

 配線作業を自身で行う方は多いと思う。前回のノイズの話でも少し触れたけど、ギターの配線は単純この上ない。ピックアップから始まり、しっかり線を辿れば途中いくつかの分かれ道があるものの、出口のジャックに割とすんなり到達出来るハズ。通過するパーツも基本的には入り口と出口なので、案外推測でもなんとかなる。
 ボリュームポットなんかは中が見えないので少々解りにくいが、ストラトやテレに使われているレバースイッチは接点がむき出しなので、レバーの位置と接点の関係がとてもよく解る。
スーパースイッチ_c0179274_17493438.jpg
という事で今回のネタはレバースイッチ。

 このタイプのスイッチで一番有名なのは画像右のCRL製の物。70年前から同じ造りで今もハイエンドクラスのギターに使われてる。基板の素材がちょっと変わったくらいでほぼそのまんまの姿。しかも今だ現役トップというバケモノスイッチ。
 ところが ”そんなんでいいのか⁉” と言わんばかりにフェンダー製品に於いてその座を奪ったのが画像左のOAK社製スイッチ。最近はこのOAKのスイッチがメインで、CRLはヴィンテージスタイル扱いになってる模様。もちろんCRLとの互換性もあるが、この画像の物はそれよりも複雑な4回路5接点という特種な配線が可能なタイプ。その名もスーパースイッチ。これについての話をしようと思う。

スーパースイッチ_c0179274_17510193.jpg

 レバースイッチの働きは複数のラインから一つをセレクトするもの。通常は各端子につながれたピックアップなどの信号を一つ選んで出力の端子に送り出すのが仕事。レバーと連動するパーツが端子と端子を繋ぐ。その動きをイメージ出来るとよいのだけど。
 画像のCRLは4つの端子が入り口3:出口1と配置されていてこれで1回路。裏側にもう一回路の計2回路入って1つのスイッチなのに対して、スーパースイッチは1回路に6つ、5:1になってるのが特徴。それが4つ入ってるんだけど、これについては時系列に沿って説明しよう。


 かつてCRLのレバースイッチは3ポジション。54年当時はストラトも3ポジションで、各ピックアップはそれぞれ単体で使う設計だった。CRLのスライダーは接点部分が幅広になっていて、切り替える際に隣の端子に触れてから元の端子と離れるリレー方式。下の画像赤丸の部分。スライダーが二つの端子にまたがってるのがそれ。
スーパースイッチ_c0179274_00004365.jpg


 ピックアップ切り替え時に一瞬でも音が途切れてしまわないようにそうなっているのだが、その時の音(いわゆるハーフトーン)がイイネって事で、75年頃に各ピックアップの間のポジションで止まる5WAYスイッチに改良される。これで二つのピックアップを同時に鳴らすパラレル接続が標準仕様となり今に至る。
 そして80年代頃にはリアやフロントにハムバッカーを積んだストラト系ギターがメジャーになり、複数のピックアップを同時に使う時にリハムバッカーのコイルタップが自動でONになる配線も出てくる等、ギターの配線はより複雑なパターンが求められるように。余談だがハーフトーンはストラトの為にあるような言葉なので、広くはミックストーンとか違う呼び方の方がよいと思う。レスポールでハーフトーンとは言わないし。

スーパースイッチ_c0179274_17523264.jpg
 そんなピックアップの接続バリエーションの一つに、2ハムながら5ポジションを使うパターンがある。リア、フロント単体以外の三つのポジションにミックスはもちろんタップサウンドやボビンの入れ替え等々、各メーカー様々な配線パターンを割り当ててるが、残念ながらこれは普通のセレクターでは不可能。
 スーパースイッチはその為に登場したと言ってもいいくらい様々な配線が可能なホントにスーパーなスイッチなんだけど、構造的にはそんなに複雑なものではない。CRLのリレー部分を独立した端子にして、2回路を4回路(つまり同じ基板を2枚)にしただけだ。(画像のコレは無視してください)
スーパースイッチ_c0179274_23584475.jpg
 考え方としては、ハムバッカーの2つのボビンをバラしてリアとフロント計4個のボビンを独立したコイルとして扱う感じ。各ポジション接続する端子は1つだけなので、このポジションではこのコイルを使うという感覚で1回路1コイルとして考えるとわかりやすいかも。とりあえず基本として。
 しかしそこにシリーズパラレルの切り替えやコイルタップなどを取り込んでいくと、パターンによっては回路が足りなくなることもしばしば。そんな時は1回路辺りの役割を増やしたり、5in 1out を 1in 5out として使うなどの工夫で結構クリア出来る事もあるので、パズル感覚で考えるのも楽しいかも?
スーパースイッチ_c0179274_17491779.jpg
 画像は2ハム1シングルのいわゆるHSH配列の配線パターン。1.フロントハム 2.フロントタップ+センター 3.センター 4.リアタップ+センター 5.リアハム という構成。これはCRLなど普通の5WAYでも可能なパターンだけど、それをスーパースイッチでやると仕組みがイメージしやすいかなと。
 回路の節約の仕方もわかりやすい。例えばリアとフロントは被る端子が無いのでまとめてしまえばそれで1回路空きが出るとか、リアフロントともジャンプした端子にタップの線を持ってきてもアース用の1回路が空くとか。
うまく使えばあきらめていた配線パターンも可能になるかもしれない。


 最後に割とよく使われるパターンを紹介しておこう。2ハムでフロント側を1とした5ポジションの配列パターン。パラレル、タップ、シリーズなどいろんなバリエーションが得られるパターンなので、興味のある方はぜひトライしてみてほしい。
スーパースイッチ_c0179274_15232128.jpg
 画像の左側にレバーを倒すとリア、右に倒すとフロントになる位置関係。フロントのHOT1と2はタップ時のコイルをリアとは極性の違う組み合わせにする為のもの。リアフロントとも同じタップ方式だと、同メーカーの場合ハムキャンセル効果が得られなくなるので、この場合フロントは1コイル目、リアは2コイル目を使うようにしてあるという事。
 DUNCANのピックアップを例に挙げると、リアHOTは黒のワイヤー、リアTAPは赤と白、緑と裸線はアース。フロントHOT1は黒、フロントCOLD1は白、フロントHOT2は赤、フロントCOLD2の緑と裸線はアースへといった感じ。
出力はマスターボリュームポットの3番に行けばOK。

この配列は 1.フロントハム / 2.フロントタップコイル1 / 3.フロントハム+リアハム / 4.フロントタップコイル1+リアタップコイル2 / 5.リアハム というパターンになる。
 フロントのタップはミックスせずにシングルコイルのように使うところがポイント。ハムキャンセルは効かないがパラレルミックスよりもやや音が太く、意外とフロントハムをタップ状態で使ってる方はいらっしゃる。噂だがエディーヴァンヘイレンもそうだとか?


 そんなこんなでスーパースイッチの話でした。
さあ、配線の沼へいってらっしゃい。

# by Rune-guitar | 2023-05-03 17:47 | guitar repair

友人のギター_c0179274_01104851.jpg
 フレイムメイプルトップが鮮やかなソロイストタイプのギター。
ホームページでも紹介してるけど、高校時代の友人からのオーダーで作ったオリジナルモデルです。
ボディーシェイプもウチのCurionからアレンジしたので、ソロイストっぽいけどたぶんちょっと違う筈。
 
 僕もこういう仕事なので、ギターのデザインやスペックには常々思うところがあって、今回はこの友人のギターと共にそんな話を少し。

 スケールはおなじみの25.25インチ。彼のモデルはずっとこのスケールでやらせていただいてます。元々は25.5のロングスケールに1046のゲージを張った時、左手の負担が大きいのを和らげる目的でうちのオリジナルギターCurionに導入したもの。使用感や音の違いは伝えなければ気付かない程度なので、よくおススメしています。
 スケールは意外と語られることが少ないのですが、自分に合う弾きやすい長さというのもあるので、気にしてなかった方は今度何か試奏する時には意識してみると何か発見があるかも。
 
友人のギター_c0179274_01040349.jpg
 ヘッドストックもかなり昔のデザイン。まだ楽器店勤務時代にショップオリジナルで企画したものだけど、完成前に僕が退職するというアクシデントで日の目を見ることのなかったデザイン。(実際にはプロトが2本あって、なんとアトランシア製!)
 ヘッドストックはネックの先端部分でもあるので、ここのデザイン、取り分けサイズは音色に与える影響が大きいです。ざっくり言うとサイズが大きく重いヘッドは音もヘヴィーに。スリムなデザインは軽いので明るいトーンになります。これはペグの重さも含んでの話。つまりペグを変えると音が変わるのは重さの影響です。似たような重さなら大して変化は無いです。

友人のギター_c0179274_01075918.jpg
 ブリッジはGOTOH 510TS FE1 + GRAVITY トレモロブロック。今は諸事情あって生産出来てないけどいつか復活させたいオリジナルパーツ。低音域の増強とイントネーションピッチの精度向上を図ったスティールブロックです。
 ここでも重さが物を言います。加えて硬さも。全体に言える話ですが、重ければ重い音、軽ければ明るい音、硬ければ硬い音、柔らかければ甘い音になります。
 ブリッジもまたその影響がモロに出る所なので、音を狙う際に重要なパーツと言えます。
 
友人のギター_c0179274_01052294.jpg
 指板はエボニー。フレットは24F、ジェスカーステンレス55090SSを搭載。もちろんコンパウンドラディアス。インレイはアバロンの美しさと白蝶貝の視認性の良さを併せたデザイン。
 指板の素材は近年南方系の物(大抵は色の濃い木)ほど入手しにくくなってきてますね。代替品も多くなってきてますが、木目以外はあまり大差無いと思います。音を狙うならメイプル、ローズ、エボニーという大きな括りで考えればよいと思います。まあ木目が魅力だったりするので一概には言えませんが....。
友人のギター_c0179274_01042458.jpg
 そしてボディーバックはアフリカンマホガニー。トータルのボディー厚は50mm程度にしてます。アーチトップってボディー中央が45mmのモデルもあって、その場合エッジ付近の厚みが結構薄いので、なんだかもったいなくてちょっと増量してます。ヒールデザインはスルーネックならではの大きいカット。まさにヒールレス。
 ボディーが音に与える影響は、素材はもちろんなのですが、個人的には ”トップ面積対厚み” が重要と捉えてます。実際の数字に加えこのトップに対しての厚みでローの出方が変わります。レスポールが良い例ですね。フライングVなんかはその逆パターン。でかいけど薄い。これについてはギブソンのギターがイメージしやすいです。見たまんま、持ったまんまの音が出る。


 こんな風にいろんな所で音は決まっていきます。ピックアップもトーンは変えられますが、音の基となる部分はやはり造りの方が決定権を持ってる気がしますね。なので、僕はどうせなら設計からと常々思います。ほんと言うとストラトなんかフレットの高さが変わったらポケットの深さも変えないと元のバランスにならないので。

 そういう観点から、オーダーメイドのギターはありとあらゆる部分に意味を持たせる事が出来ます。細かく書いてはいないけど、ネックの幅、厚み、シェイプ。コントロールの構成や配置。ハードウエアのチョイス。カラーリング。それこそウッドマテリアルから始まって全て一つの目標に狙いを定めて設計していくので、思い描くギター像がある方ほど着地点が近いギターが出来上がります。
 昔と違ってギターの構造も多様化して、新しいパーツもたくさん出てきてます。今はホントにいろんなギターが作れるので、たくさん妄想を膨らませていただければと思います。これ考えてる時が一番楽しいので。

ではまた。

# by Rune-guitar | 2023-04-27 03:05 | Curion
 エレキギターの回路は結構単純な造りしてます。なんたって70年前から大して変わってないですから。
もちろん新しい物もいろいろ出てきていますが、未だに広く世に出ているのは電源を必要としないパッシブという回路。
 極端な話し、ピックアップからのシグナルが流れているラインは1本だけ。すごく単純。

 そこにピックアップを増やしたり、切り替えるスイッチを付けたり、ボリュームやトーンを付けたりして一般的なギターの回路は出来ています。そんな単純なエレキの回路から出るノイズなんて本来たかが知れているのですが、実際アンプからはジーとノイズが出ます。
あれは一体何なのか?。

それは外部から入りこんでくる、文字通り外来ノイズというヤツです。

 外来ノイズの多くは蛍光灯やパソコンなどから発生するハムノイズというものです。ボリュームを絞れば消えますが、逆に演奏中は出ています。聞こえてないだけなので、パートを分けて録音すると気になる事も多々。そういう時の対策としてノイズ処理というのがあります。

ノイズ処理_c0179274_22455711.jpg

 ギターの中を見ると、なにやらツヤ消しブラックみたいな塗料が塗られている事があります。画像はストラトのピックガードやハードウェアを外した所。この黒いのは電気の流れる塗料で導電塗料と呼ばれるもの。
 成分はカーボン。鉛筆の芯とかね。カーボンは電気がよく流れるので、電源タップのそばにシャーペンの芯とかとても危ないシチュエーション。

ノイズ処理_c0179274_00470750.jpg
 で、外来ノイズは電気の流れる所に乗っかってくるので、キャビティーに導電塗料を塗ってアースに繋いでやると、ハムノイズが根こそぎ流れ落ちて内部に入って来なくなる。画像のネジ止めされてるラグから線が出てるの分るでしょうか。これをポットの裏とかに繋ぐとアースに流れます。繋がないと、せっかく塗った塗料がただのノイズ拾いになるので必ず繋ぎます。
 これをシールドとかシールディングといって、ギターとアンプを繋ぐシールドも正確にはシールドケーブル、シールドコードといいます。(なんでわざわざシールドと付けるかというと、スピーカーケーブルはシールディングされてない2芯ケーブルを使うから。ここはキチンと使い分けます。)

 その導電塗料。ジャックキャビティーには塗っていない事が多いです。これはジャックが緩んでガタつくと、キャビティーとホット端子が接触する可能性があるから。ライブ中に音が途切れるとか最悪の事態を避ける為です。
 しかしこのジャック部分て結構ノイズが乗りやすい構造なので、僕はジャックキャビティーも塗ってます。実際かなり違う。
ただしそれなりの対策をしておかないと先の最悪の事態になるので、ジャックにテーピングしたりしてます。

ノイズ処理_c0179274_22402328.jpg

 画像の上側の端子がそれ。(下のはプラグのガタによる接触不良を軽減させる為に使ってるのでテーピングは無し。)この線は金属の網で覆われているシールド線だけど、端子の接触部分はどうしてもシールドが無い状態になるので外来ノイズが入りこみやすいです。なのでここのキャビティーをシールディングする効果は大きいんです。

 今回はノイズ対策の話でした。最後に、導電塗料を塗ると音が痩せるとかよく言われてますが、事実音はスッキリします。纏っていたノイズが無くなる分だけ細くなったように聞こえますし、高域成分が若干ロスするので音が変わるのはあります。
なのでどんな方にもおすすめする物ではありませんが、メリットもかなり大きいのでそこらへんをよく天秤にかけて検討していただければと思います。

それでは。

# by Rune-guitar | 2023-04-21 08:00 | guitar repair

by Runeguitar